「多様性」はなぜ大切なのか?

ずっとモヤモヤしていたんですが、なんとなく自分なりの答えが見えてきたので書きます。

前提として「多様性が大事!」という論調はそもそも2つの論点が混ざっている気がします。

1つは反差別的な文脈。もう1つは生産性の文脈。

前者については女性の働きやすさ、セクシャリティや国籍、エスニシティなどのあらゆるマイノリティの方達に対して寛容な世界を目指しましょう!という話。後者は、学習の場から仕事の場に到るまで、凝り固まった同質的な人間が集まるとつまらない意見しか出なくて非生産的だぞ!という話ですね。僕の中で前者には完全同意ですし、そもそも自分が差別されたい人なんていないわけで、他の人たちも同様に差別のない社会を作ろうとする、ここに異論はないのです。

つまり、僕がモヤモヤしていたのは「多様性のある環境にしとくと(なんとなく)良い意見でるよ」という意見に対してです。

 

この後者の多様性についても勿論同意はするわけですが、如何せん肌感覚としての意見であって肝心の何故かというと、という明確な言語化はできていなかったわけであります。

冒頭に少し書きましたが、<異なるバックグラウンドの人が混ざる>→<これまでにはない素晴らしい意見がでる>→<目からウロコが落ちる→物事が改善する>、という論理って雑すぎると思いませんか?要するに「俺たちだけじゃ良い意見が出ないから、誰か助けを呼ぼう!」という話と大差ありません。ただ、新たに招聘する人たちが仮に外国人や女性リーダーだから優れたアイディアを出せるかと言ったら、(ちょっとは出るかもしれないけど)別に優秀な日本の旧来エリートだってそこで大きく負けないと思うわけです。では、なぜ多様性?というのが最近の僕の考え事でした。

 

まず1つだけ言えることは、多様な意見が出てくる環境にしたから明日から良いビジネスアイディアやクラスディスカッションが進むぞ!とい超短期的な考え方を捨てる必要があるということです。むしろ少し長めの視座にたって、優れた多様性の環境に身を置いておくと、次第に集まっているメンバーが変化、もしくは進化していくよ、というのが僕の仮説です。良い意見を他人に期待するのではなくて、良い意見を言える自分に変わろう!という話です。当然、何もないところにこうした変化は起きないわけで何らかの原動力が必要です。この起点こそが「多様性」であり、端的に言い換えれば「理解不能な人と出会う」こと、なんだと思います。人は未知のものと出会った時には(完全に諦めている一部の人以外は)、その未知なる対象のことを理解しようとします。そして分かった!となるためには、必ず自分の持っている知識や経験を下敷きにして、「つまり、あれと同じで、こういうことだな!」と腹に落ちていくわけですね。既に知っている知識と重なるところがあれば、知らないようでいて既に陸続きの地面のようなものですから理解に難いこともありません。ただし、どんな既存の知識を取り出してみても、何となくしっくりこないな、というものもあります。こういう類の未知の物事を考えるためには、自分なりの「解釈」の橋をかけていく必要があります。自分が立っている浜辺から、目の前の少し離れた島に橋をかけていくような姿をイメージしてみましょう。小島の姿ははっきりと見えていて、どういう形か大まかに理解はできるんだけれど、その島の裏側や影などは見えていませんから、どこか腑に落ちないような感覚が残ると思います。そこで理解に到るまでの知識の抜け漏れは、自分の想像や直感で埋めていく作業が必要になります。もしかしたら、また別の本を読んでいたら半分で諦めていた橋が綺麗に架かるかもしれません。ただ、一度到達してしまいさえすれば、その島とは自由に行き来ができますし自分の行動範囲が広がった分、さらに先の小島が見えることもあるでしょう。

 

長くなりましたが、多様性に自らの身を置くというのはこういう風に「自らを考えさせる」環境に身を置くことに他なりません。他の人に良い意見をもらうために多様性を高めるのではなく、自分自身がよく考えて、より良い意見の一つも言えるようになろうというのが本来あるべき多様性の姿だと考えてます。ですからある意味では多様性が増すと短期的には苦しい思いをするのは自分たちなのです。筋トレと一緒で力がついてくるまでの辛抱ですが、ここがなかなか辛いのです。そんな中で、外国籍の人材や女性役員の登用など最近では目標数値も決められています。数値目標自体は良いことかもしれませんが、義務だから、目標だからと実施するのではなく、受け入れる側が変わる、成長の機会を作り出す、と捉えることこそが重要だと思います。そうするだけで後から加わる人も伸び伸びと活動ができると思います。間違っても後から来た人が、元からいた人間に合わせよう、などという発想になってはいけないのは、ここまで考えてきた多様性の本分から照らしても明らかですね。ライフネット生命創業者で立命館アジア太平洋大学学長である出口治明氏は常々「残業しないで勉強しなさい」「多様性は人・旅・本」と仰っています。色々な種類の人と会い、旅をして、本を読み、そこから出会う未知なるものに自分なりの解釈と理解を繰り返していくことが大切だと、考えてみればたくさんの人たちが発信していますね。

 

「多様性」とは「自ら考えることで自己成長を促す機会」である、これが今のところの僕の解釈です。